コンゴの性暴力と紛争を考える会(ASVCC)主催テラ・ルネッサンス小川真吾氏講演会「コンゴ東部の現状:女性の置かれた状況を改善するには」

コンゴの性暴力と紛争を考える会(ASVCC)主催 テラ・ルネッサンス小川真吾氏講演会 「コンゴ東部の現状:女性の置かれた状況を改善するには」

【日時】1月11日(土)14:00~16:30(開場13:30) 【会場】聖心女子大学4号館グローバルプラザ3階ブリット記念ホール(東京・広尾) 【登壇者】 ・基調講演:認定NPO法人テラ・ルネッサンス 小川真吾理事長 ・コメント:立命館大学 ジャン=クロード・マスワナ氏(ASVCCアドバイザー) ・モデレーター:東京大学 華井和代(ASVCC副代表) 【概要】 ASVCCは2019年10月に、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部で性暴力被害者の救済に尽力するデニ・ムクウェゲ医師を日本に招き、日本の研究機関、政府、援助機関、メディア、市民社会のみなさんにコンゴの現状と紛争下の性暴力の問題を伝える機会を設けた。医師がアドボカシー活動を強化しているにもかかわらず、今後における女性への性暴力は今もなお続いている。「コンゴで起きている問題は人類の危機である。解決に向けてともに行動してほしい」というムクウェゲ医師のメッセージを受けて、日本の私たちには何ができるのだろうか。 今回の講演会では、コンゴの紛争影響地域(南キヴ、中央カサイ)で支援活動を行う認定NPO法人テラ・ルネッサンスの小川真吾理事長をゲストに、コンゴ出身の経済学者である立命館大学のジャン=クロード・マスワナ氏をコメンテーターに招き、紛争の被害を和らげ、住民のくらしを支えるために日本からはどのような支援ができるのかを参加者と一緒に考えた。

(1)趣旨説明:華井和代  開会に際してASVCC副代表の華井から、ASVCCの紹介、本イベントの目的、コンゴ東部の紛争状況、およびムクウェゲ医師の活動の概略を説明した。そのうえで、コンゴの紛争影響地域で住民を支援するテラ・ルネッサンスの活動について学ぶことで、支援の在り方について考える機会にしたいとし、小川氏を紹介した。

(2)基調講演:小川真吾氏  小川氏は、コンゴでは南キヴ州と中央カサイ州において、元子ども兵、最脆弱層の女性、孤児、最貧困層を対象に約1200名への支援を行っているテラ・ルネッサンスの活動について概要を紹介した。そして、川のように見える道路の写真を示し、コンゴでは紛争問題を議論する前にまず社会インフラが整っておらず、道がなければ薬や食べ物を運ぶこともできない状況であると説明した。最脆弱層の女性たちは50~60kgもある荷物を背負って7時間も歩いて物を運び、1~2ドルのわずかな現金しか得られずにいる。しかし、性暴力を受けてコミュニティから排除された女性たちが現金収入を得る手段はそれしかない。女性たちの立場はとても弱く、このような仕事で現金を稼ぎ、家事、育児などすべてをこなしている。その一方で、コンゴには高級車を乗りこなす富裕層もいる。  テラ・ルネッサンスの活動地域であるコンゴ東部の南キヴ州には、小規模鉱山がたくさんある。現金収入が得られる機会はここしかないために若者たちは危険な目にも遭いながら過酷な労働に従事している。地元の武装勢力であるRaia Mutonbokiによって利益がピンハネされることもある。  小川氏は、鉱山で働く一人の若者の写真を示した。彼は、鉱山での労働に従事していたが、妻がテラ・ルネッサンスの支援で洋裁の技術を得て収入を得られるようになった。月30ドルの妻の収入から費用を出してもらって車両整備の技術を学び、今では仕事ができるようになったという。  コンゴの紛争は、第二次世界大戦後の世界で最も多くの犠牲者を生んでいる。犠牲になるのは女性や子どもが多い。さらに、多くは紛争の間接的な暴力によって命を落とす。紛争による治安の悪化によって農業ができなくなり、生活状況の悪化によって食べ物や薬へのアクセスがなくなる。そうすると、栄養が不足した子どもたちは本来予防可能な感染症で亡くなる。小川氏自身も7回マラリアにかかったが、治療を受けて治った経験があり、栄養と薬があれば治せる感染症であると語った。  次に小川氏は、住民が畑で協力して農作業をしている写真を示した。常に武装勢力による襲撃があるわけではなく、襲撃は断続的に行われる。そのため、他の村と共同で農作業をする仕組みを作ることで、襲撃を受けた村と受けなかった村の間で相互扶助を担保できる。キャッサバや野菜を作っているが、キャッサバは収穫後すぐに加工しないと腐ってしまう。そこで、キャッサバを粉末にする機械を導入した。粉末にしておけば保存ができ、必要な時に料理したり、適切な時期に売ることで買いたたかれずに適正価格で買い取ってもらうことができる。特に性暴力を受けた女性たちは立場が弱く、買いたたかれる可能性が高いため、こうした加工ができることは大きな助けになる。なかには、パンジ病院で治療を受けた女性もいる。  洋裁の支援活動では、洋裁技術の訓練から、お店を開業するまでの支援を行っている。技術訓練をしてミシンを渡すだけの支援では不十分であり、その先の支援がとても大切だと小川氏は語る。どのくらいの布を買って、1枚で何着が作れて、いくらで売るかなどの計算を学ぶことに半年ほどかかる。そうした支援を経て、直近50名の実績だと支援前は3~8ドルだった月収が、15~70ドルに向上した。月収に幅があるのは、服が売れる時期に波があるためである。服があまり売れない時期は農業に従事し、クリスマスシーズンにたくさん服を売る。  また、貯蓄グループの活動も重要である。20~25名ほどでグループを作り、少しずつお金を出し合って貯蓄し、誰かが必要な時に貸す。1年間貯めたお金を年に1回分配して、また貯める。こうした経験を通じて、貯蓄の知識を身につけていく。  小川氏は、こうした洋裁技術を学んで開業した一人の女性の例を紹介した。2005年に村で虐殺があったとき、武装勢力は住民を一網打尽に捕まえて殺害し、子どもたちを家に集めて火をつけた。彼女は父親と妹を殺されて自身も大けがを負ったが、一命をとりとめた。こうした経験の後のくらしは土手も大変であり、差別を受けることもあった。しかし、母親が彼女を理解し、支えてくれたおかげで生きてくることができた。テラ・ルネッサンスの支援で洋裁を学んで稼げるようになると、兄弟の面倒も見られるし、堂々と歩けることが嬉しく、生きている喜びが感じられると彼女は語っているという。さらに昨年、彼女は結婚して幸せいっぱいにくらしている。  ウヴィラでも襲撃によって虐殺が起き、大量の避難民が発生したが、テラ・ルネッサンスは生産者協同組合を作って牛乳をパッケージにしたり、チーズを作ったりする支援をした。昨年は治安が悪化し、100か所くらいの村が焼かれて20万人が避難した。村に入れていないため、活動がどうなっているか心配であると小川氏は語った。  テラ・ルネッサンスは、コンゴ南部の中央カサイ州でも280名を対象とする支援活動を行っている。この地域では、2016年8月以降、数千人が殺害され、100万人以上が避難民となっている。推定2000人の子ども兵がリクルートされ、性暴力被害者は280名に上っている。調査によれば、280名のうち161名が夫、142名が子ども、205名がその他の家族を亡くし(重複あり)、1日40円くらいの収入でくらしている。  中央カサイ州でテラ・ルネッサンスは、パイナップルジュースと石鹸づくりを支援している。キャッサバの例と同じように、加工して販売することで利益を得られる。平均的な1日の収入が0.43ドルから1.74ドルに向上した。  活動紹介の後、小川氏はテラ・ルネッサンスの理念を語った。 第1に、一人ひとりの状況に応じた視点で、オーダーメイド型の支援を行うことである。どんな被害に遭ったのか、どんな心の傷を持っているのか、教育を受けた経験があるか、計算ができるかなど、一人ひとり事情は異なるので、一人ひとりに応じた支援が必要と考えている。 第2に、脆弱な部分だけに注目するのではなく、支援対象者が持つ潜在的な能力を重視する視点で、「できない物語」から「できる物語」への環境をつくる支援を行うことである。何がないのかを探すことは援助の基本であるが、この地域の人たちが持っているものを見つけて生かすことが大切である。同じ支援を受けても人によって成功の度合いが違う。自尊心が高い人ほど成功している。どんなに大変な経験をしても、社会関係を築くことで成功できる。自尊心が高い人に質問をすると共通しているのは「自分は他者に何かをしてあげられる」という答えであるという。服を作ってあげられる、隣のおじいさんにときどき牛乳を上げているなど。ある村では、支援対象の女性が自発的に、他の女性たちに無償で洋裁を教えていた。大変な状況の中でも、他者に何かをしてあげることで自分自身の価値を感じていた。 最後に小川氏は、私たちにできることとして3つを上げた。1つ目に、現場への支援として、オルタナティブなディーセントワークをつくることである。鉱山労働に依存してきた若者たちにも代替的な仕事を提供することである。2つ目に、日本で事実を伝えることである。そのために、調査・提言、翻訳・発信、メディアワークに尽力している。3つ目に、消費行動を変えることである。紛争鉱物を買わないことなどがその例として挙げられる。現場で15年がんばっても問題がなかなか解決しないというジレンマはある。現場だけで問題が起きているわけではない、グローバルな問題が紛争を引き起こしていることに目を向けてほしいと小川氏は語った。

(3)コメント:ジャン=クロード・マスワナ氏  マスワナ氏は、「グローバルな責任」「政府の統治能力」「持続可能な開発目標(SDGs)」という3つの観点からテラ・ルネッサンスの活動の意義を語った。  コンゴでは政府が機能していないため、治安維持も道路整備も教育も農業技術指導も行われず、住民を保護する仕組みが存在しない。例えば、コンゴでは1997年以降、行政によるIDカードの発行が行われていない。そのため、武装勢力は簡単に他人に成りすますことができる。こうした統治機能が不在な中で、テラ・ルネッサンスは人々のくらしを支える代替的な機能を提供している。SDGsに照らすと、テラ・ルネッサンスの活動は、1.貧困削減、2.飢餓撲滅、5.ジェンダー平等、8.働きがいと経済成長、17.パートナーシップなど、多くの目標に貢献している。私たちには、テラ・ルネッサンスの活動を支援し、問題解決に協力する責任がある。世界のあらゆる人権侵害に目を向ける責任は、コンゴ人でも、日本人でも、世界中のすべての人にある。

(4)質疑応答  参加者との質疑応答では、主に以下のやり取りが行われた。 質問:問題が複雑で解決が難しいと感じるが、解決のためには何をしたらよいのか。 小川氏:コンゴの問題は、政治、経済、社会の多様なレイヤーで複雑に絡み合っている。絡まったひものどこかを引っ張ったらさらに悪化するように、一つの方法で解決しようとすることは難しい。包括的に取り組むことが重要である。コンゴ政府は、自国の統治の問題であるにもかかわらず、援助ドナーの方を向いて政治を行ってきた。自分たちの国の技術で物を生産する能力がなく、植民地期からの依存関係が作り上げられている。 マスワナ氏:1970年代のオイルショック以降、コンゴ政府は機能していない。現在起きている問題の根はそこにある。市民社会からの支援は短期的には効果があるが、長期的には政府が機能することが必要。人権侵害に国軍が関わっているという問題があるが、コンゴ政府は、大統領から大臣までがコンゴ紛争時の元武装勢力兵士から構成されている。そもそも国が機能していなければ、国軍が機能するわけはなく、国軍兵士と武装勢力の違いはない。

質問:2018年12月の選挙の際には、コンゴ東部はどのような様子だったのか。 小川氏:中央カサイ地域は新大統領に選ばれた野党チセケディの支援地域だったため、与野党支援者グループ間の衝突や表現へのプレッシャーがあった。カナンガでは銃声も聞こえた。政権交代後は、変化への期待がある。学費を下げる法律は作られたが、効果が届くまでには時間がかかる上に、実現するのかどうかも不明である。

質問:中央政府は機能していないようだが、地方政府の機能はどうか。 マスワナ氏:紛争前のモブツ大統領の時代は、トップ・ダウンで物事が行われていた。ドナーの資金が中央から地方に分配されていた。しかし、モブツ政権の崩壊後にこのシステムも崩壊し、政府資金の9割は首都キンシャサで使われるようになった。地方では道路さえも整備されていない。

質問:元少年・少女兵の武装解除・社会統合にテラ・ルネッサンスはどのように関わっているのか。また、加害者と被害者の間に軋轢はないのか。 小川氏:子どもであっても兵士は軍事情報を持っているため、武装解除するとまずは事情聴取が行われる(兵士としてのスキルがあるため、その際に政府軍にリクルートされてしまうこともある)。一般的には事情聴取後、ユニセフなどどこを受け入れ機関とするかを決定する。しかし、コンゴではこうした仕組みが機能していない。武装勢力の数が多く、あちこちで司令官が子ども兵を抱えている。テラ・ルネッサンスの活動地域にはFDLR、Ria Mutombokiなどの武装勢力に加えて、住民の自警団なのか武装勢力なのかがあいまいな集団(Mai Mai)も存在する。情報網を持っておくことは大切なので、Mai Mai司令官を訪問することもあるが、子ども兵解放の説得はなかなか難しい。 マスワナ氏:IDカードがないと、武装解除には実効性がない。武器を手放してお金をもらっても、数カ月で使い切って貧しくなると、別の武装勢力に参加してしまう。

質問:女性に参政権はあるのか。 マスワナ氏:参政権はあるが、男女のリテラシー・ギャップを考慮する必要がある。村の女性は家事や畑仕事などで忙しく、ニュースも見られない。夫と一緒に投票所に行き、夫の意見に従って投票するということが起きる。 最後に、マスワナ氏は日本にとってコンゴは遠い国だが、鉱物の取り引きに代表されるように経済的なつながりは強く、今後ますます強くなっていくという展望を語った。