『すべては救済のために デニ・ムクウェゲ自伝』出版記念トーク・イベント開催報告

【日時】5月24日(金)18:00~20:30 (受付開始17:30)

【会場】聖心女子大学4号館グローバルプラザ3階ブリット記念ホール(東京)

【パネリスト】

立山芽以子(TBS New23 ディレクター)

加藤かおり(フランス語翻訳者)

【モデレーター】

華井和代(ASVCC副代表/東京大学未来ビジョン研究センター 講師)

【概要】

コンゴ東部で4万人以上の性暴力被害者を救済し、2018年のノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ医師の自伝『すべては救済のために デニ・ムクウェゲ自伝』の日本語訳が2019年4月10日に出版された。本書の出版を記念する本イベントでは、2018年11月にコンゴ東部のパンジ病院で医師を取材したTBSディレクターの立山芽以子氏、本書の翻訳を担当した加藤かおり氏を招き、ムクウェゲ医師の活動の意義を考えた。イベントには、援助機関、NGO、企業、報道機関、学生が計75名参加し、コンゴの紛争問題を考える貴重な機会となった。

(1) 趣旨説明:華井和代

 開会に際してASVCC副代表の華井から、ASVCCの紹介、本イベントの目的、コンゴ東部の現在の紛争状況、およびムクウェゲ医師の活動の概略を説明した。自伝の中でも描かれているように、1955年に生まれたムクウェゲ医師の半生は、1959年に隣国ルワンダで社会革命が発生し、1960年にコンゴが独立してコンゴ動乱が始まり、1965年からモブツ大統領の独裁が始まり…、というコンゴの激動の時代とぴったり一致している。こうした時代を生き、紛争に苦しむ人々を救済し続けてきた医師の存在の重要性を華井は強調した。

(2) パネルトーク:立山芽以子/加藤かおり/華井和代

立山氏は2018年11月にコンゴ東部のブカヴを訪問し、ムクウェゲ医師が設立したパンジ病院に10日間滞在して取材を行った際の様子を紹介した。加藤氏は、翻訳の経緯を説明したうえで、本書の印象的な部分を紹介した。そのうえで、コンゴが抱える問題やムクウェゲ医師の活動の重要性、紛争下の性暴力をとらえる視点など、多様な角度から意見交換を行った。

性暴力の加害者は被害者でもある

 立山氏は、取材した性暴力を行った元加害兵士の話を引き合いに出しながら、「加害者が隷属的な立場で犯罪を強要されており、根本的な解決には、加害者を罰するだけでは難しい」と指摘した。元兵士の青年は、自分の村を襲撃した武装勢力に「死ぬ」か「武装勢力に加わるか」の選択を迫られ、命令に従わないと殺されてしまう状況で兵士となり、性暴力を行った。立山氏が彼に「今何をしたいか」を聞くと、「学校に行きたい」と語った。彼が今いちばん楽しいのは、「闘わなくていいこと」であるという。

本書の魅力

 翻訳者の加藤氏によると、本自伝は共著者のオーケルンド氏が行った、2年間で延べ100時間のインタビューをもとにしており、ムクウェゲ医師のまっすぐな人柄が言葉に表れている。加藤氏が最も印象に残っているのは、ムクウェゲ医師が、紛争が激しい時でも、病院を作ることで、住民に「戦争が終わるのだ」という希望を与えたいと思い、周囲の反対を押し切って病院を建設したシーンであった。加藤氏は本自伝の中にある、「緊張が極度に高まっていたあの時期に、人々に幻想を抱かせる必要があった。希望がなければ人は品性を失い、野蛮へと堕ちていく恐れがある」というムクウェゲ医師の言葉を紹介し、戦時下での病院建設は、「人々に治療だけでなく、希望や心の支えをも与えようとするムクウェゲ医師らしい選択だと思う。どんなに反対されても、人々のためならばリスクを恐れず大きな賭けに打って出られるムクウェゲ医師の行動力を象徴するエピソードだ」と述べた。

ムクウェゲ医師がノーベル平和賞を受賞されたことの意義

 立山氏は、コンゴの性暴力について伝える難しさと、ムクウェゲ医師がノーベル平和賞を受賞したことの意義について語った。コンゴの性暴力の問題は、日本で暮らす私たちとかけ離れているように感じる。「武器」としての性暴力と言われると、聞いたことがないので理解できなくて、「アフリカってそんなに野蛮なのかしら」「自分たちには関係がなさそう」と感じてしまう。しかし、この問題はコンゴだけの問題ではない。そうした点で、今回の受賞は、遠い国の問題に対する「無関心」の壁を破る手段として、大変大きな意義がある。これを一時的なブームで終わらせるのではなく、5年、10年後、その先の未来に、コンゴがどうなっているのかを、伝え続けていきたい。そのころには、パンジ病院が、性暴力の治療だけではない「普通の町の病院」になっているといいなと思うと語った。

 華井は、メディアが継続的に伝えていくことに難しさがあるからこそ、市民の力がとても重要だと述べた。例えば、性暴力や紛争鉱物への問題意識が芽生え、授業の講義で取り扱う先生や教授が増えるなど「小さな変化」が継続的に起きることを望んでいる。

 加藤氏は、ムクウェゲ医師がコンゴの「再生」のシンボルになることが、コンゴの人たちにとっても希望になることを期待していると述べた。

(3) 質疑応答

後半の70分間は参加者からの質問を受けてさらに理解を深めた。会場から寄せられた主な質問とパネリストの回答は以下の通りであった。

質問:産婦人科の病院として、性暴力被害者の精神的なケアをどのように行っているか。

立山:精神的なところは、ソーシャルワーカーや心理士などが行っている。

質問:夏にウガンダの子ども兵に話を聞きに行く予定なのだが、立山さんは、被害者・加害者に質問をする上で相手を傷つけないように意識されていることはあるか。

立山:申し訳ないなという気持ちもあるが、聞かないと伝わらないので、心を鬼にして聞いている。自分を卑下する必要はない。その人に話を聞くっていうことは自分に跳ね返ってくるということ。ぜひ行って、話を聞いてみてほしい。

質問:ムクウェゲ医師は、病院に来られない性暴力被害者について何か言及されていたか。

立山:直接的な言及はなかった。しかし、看護師の話から推測するに、来たくても来られない人は多い。現在、ムクウェゲ医師は、病院から離れた地域に住む人々が治療を受けられる「ワンストップセンター」をコンゴ各地に建てようとしている。

質問:加害者の男性を地域社会はどのように受け入れているか。

立山:今回取材した元加害兵士は、11人殺して200人レイプし、懲役5年の刑を言い渡さたが、親族がお金を払い、数か月で刑務所を出てきた。きちんと処罰されないことはよくある。しかし、彼も、仕返しをされるかもしれないという恐怖で地元には帰れない。

質問:この問題に対して日本政府がアクションをとることは非常に大切だと思うが、政府の姿勢はどのようなものか。何かインタビューはされたか。

立山:インタビューはしていないが、日本政府を通じてコンゴの情勢を変えていくことは大事だと思う。コンゴ政府は変えられないかもしれないが、日本政府は変えられるかもしれない。ムクウェゲ医師は、日本人の美徳に関心を持っており、「日本の人がコンゴに入ってきてくれて、経済活動を独自にやってくれたら」と言っていた。

参加者の感想(来場者アンケートより抜粋)

・1年前の会よりも参加者が増えている気がし、素晴らしいと思います。

・大変参考になりました。今の自分、これからの自分になにができるだろう、と聞きながらとても考えさせられました。また機会があればぜひ参加したいです。

・ムクウェゲ医師の人格から自分自身も学びたいと思いました。

・質疑応答の時間で大変濃い話し合いができてよかったです。

(報告者:ASVCCユース/早稲田大学 国際教養学部 後藤まりな)